動詞性名詞としてabstractionをとらえてみる

 Wikipediaはありがたい。辞書を引かなくても簡単に探しているものにとりあえず行きつける。今回そう思った理由は,名詞にもいろいろあると思って,「名詞」を引いたからである。

 そして「名詞」のWikipediaを引くと,「狭義の名詞」という説明があり,分類として,「普通名詞」,「固有名詞」,「形式名詞」,「動詞性名詞・サ変名詞」とある。この中で「普通名詞」の例として「犬」「ピアノ」「時代」が挙げられており,一方「動詞性名詞」の例として「勉強」「希望」「テスト」が挙げられている。このWikipediaの説明は日本語の名詞を対象として説明されているが,他の言語でも名詞の中の分類は恐らくあるのだろう。

 そう思って英語の"Noun"をWikipediaで引くと, the name of "a specific object or set of objects", "such as living creatures", "places", "actions", "qualities", "states of existence", or "ideas"と分類している。さらにそれらの説明として,

actions and states of existence can also be expressed by verbs 

qualities by adjectives

places by adverbs

とある。

 同じ名詞と言ってもそれぞれの名詞はいろいろな品詞と繋がっている。一方我々は名詞に対して,名詞という品詞で一括りにしてみてしまうが,はたしてこのように他の品詞とは異なる一つの品詞としてよいのであろうか?そう思うのは,名詞という一つの括りにしてしまうと,大事なことを見過ごすのではないかと思うからである。

 実はこう考えた本当の理由になるのだが,この間執拗に問題にしている"abstraction"は,名詞のどの分類に対応するのかを考えてみた。専門家が(そのような専門家がいればだが)どのように分類するのか分からないが,私の考えではabstractionは動詞(verb)で表現される名詞ではないかと思う。そうであるとするならば,abstaractionは,abstractという行為を意味しているのであろう。

 また,abstractの日本語の訳では,しばしばお世話になっているWeblioの動詞(他動詞)では,

1

〔+目的語(+from+()名詞)〕〈ものを〉〔…から取り出す抽出する抽象する.

 

2

〔+目的語(+from+()名詞)〕《婉曲》〈ものを〉〔…から抜き取る盗む.

 

3

/[N16-A12C][N16-A12B]/〈…を〉要約する.

 

とある。これを見ると,英語は1つの単語でいろいろな意味を表し,英語では日本語と異なり1つの単語で場合によって意味をいろいろ使い分けなければならないのか,などと思ってしまうが,実はそれは違うのではないか。abstractを動詞としてみるならば,未分類な曖昧な混沌としたものから,本質を選び出すという行為を意味しているのではないだろうか。本質を選び出すということは,本質となるものと,本質とならないものに篩い分けると言うことだ。abstractはそのような行為を指しているのではないか。そうすると,本質となるものを抽象し,ということは同時に本質とならないものを捨象する行為である。どちらかではない。両方だ。

 ということで思ったことの結論は,抽象し,捨象する行為をabstractは指すのだから,どちらでもあるということだ。すなわち意味を使い分ける必要はないのだ。英語の一つの単語の意味としては1つだ。

 だが問題は,英語の一つの単語が,日本語ではなぜ複数の意味に対応させなければならないのだろうか?日本語では曖昧・混沌としたものから,その本質を導き出すと言う行為を一つの言葉で表す単語はないのだろうか?ひょっとしたら,日本語あるいは日本人にそのように考える習慣がないのであろうか?これが当面の問題である。何か宗教的,文化的なところに原因があるような気がするが,もう少し考えてみたいと思う。